**confection**
buoyancy
「はよー…」
教室の扉を、力無く開け放つ。
すっかり見慣れた光景に、ずいぶんと体もこの環境に馴染んできている。
でも、こうして遅刻こそせずにギリギリだったりする時もたまにはあるが、休まず登校してくるのは、もものお陰なのだろう。
「松風君、頭すごいよ!!」
「…そう」
まだしっかりとクラスメートの名前を覚えていない俺は、今まさに声を掛けてきた女子さえも、名前が浮かばないままだ。
素っ気なかったかもしれないが、いつも俺はこんな調子なので、相手も特に気にする様子はない。
それどころか、いつの間にか気安く声を掛けられるようになったのか、そっちの方が気になる。
入学して、まだ1ヶ月も経っていない。
そして、俺の誕生日から数日が過ぎていた。
その時、背中に何かがぶつかり、驚いた声と共に後ろに振り返った。
なんだ?
「うわあ、びっくりした〜…るぅ?」
「ん…?おはよう」
「入った先で立ち止まってないでよ」
振り返ったすぐ後ろには、ももがしかめっ面で俺を見上げる姿。
登校して早々にドッキリなハプニングに、俺は朝から血圧の上がる思いだ。
どうやら俺が、教室へ入ったすぐで立ち止まっていたせいか、死角になっていたせいでももが入ってきた拍子にぶつかってしまったらしい。
「頭ウニだよ?おはよ」
「俺をタワシやらウニやら言うのは、ももぐらいだ」
しかめっ面からふわりと笑ったももに、俺は気持ちを隠すようにして誤魔化すのが精一杯だった。