**confection**
「遅い!!」
「うぐっ…ま、待たせたつもりはないよ…」
玄関で出迎えると、口答一番にそう喝を入れられ、小さくなる。
俺よりも八つ年上の兄貴。
慶衣斗。
久々に見るその姿は、俺にとっては相変わらず鬼のように恐ろしい。
優しい顔をしながら、俺にはそれが鬼や悪魔に見えて仕方がないんだ。
サラサラの黒い髪をかきあげながら、チラリと俺を見据える。
「まだ着替えてないのか…?今帰ったのか」
「いや。忘れてた」
俺の言葉を聞いた途端、鬼畜兄貴の顔がピクリと反応する。
しまった。
俺から突っ込む要素与えてどーすんだよ……。
そう思った瞬間、予想通り慶兄が口を開ける。
「ゆるんでるんじゃないのか?着替えぐらいしろ」
「…うん」
いろいろ突っ込まれるのも面倒で、素直に頷く。
まさか、帰ってから今まで、ソファーで考え事してたなんてバカ正直に言おうモンなら、根掘り葉掘り聞かれて良いネタになっちまう。
そんなめんどくせー事、まっぴらごめんだ。
「腹は?どーせ食ってないんだろう?」
「うん、まだ」
言いながら玄関を上がると、兄貴が廊下を歩く。
その後に続きながら、下手に可笑しな事を口走らないよう細心の注意を払う。
慶兄の手には、スーパーの袋。
どうやら中身は、食材のようだ。
俺が高校へ入学してから、こうして兄貴と会うのは初めてだ。
そして、爽やかなその姿からは消毒の匂いがし、仕事終わりに真っ先に向かってくれた事が簡単に伺い知れた。