**confection**
「学校はどうだ。地元と比べたら人が多いだろう」
「最初はやってけるか不安だったけど。今はツレも出来た」
兄貴がキッチンで袋からガサガサと中身を取り出す音を背後に、適当に着替えを始める。
この部屋に人の気配を感じるのは、ここに1人で来てから初めてだ。
家族であると言う事からか、鬼畜兄貴ではあるが安心感と共に気が緩む。
「…体動かしてるのか?少し筋肉が落ちたな」
「あー…最近は全く動いてねえ」
他愛もない会話をしながらも、兄貴が俺を気にかけてくれている様子がよく分かる。
忙しい合間を縫って、貴重な休み時間に俺に会いに来てくれるさり気ない優しさに、やっぱり適わないなんて思った。
「勉強も詰め込みすぎるなよ。体に悪いだけだ」
そんな事を言う本人こそ、少し痩せたようで疲れが滲み出ている。
医者と言う物は、人の病気を見付けたり治したりするくせに、自分の事となるとめっぽう疎い。
そんな事を俺が言った所で、きっと兄貴は予想外な事を言ってのけるに違いないので、俺はあえて言わない。
そして、そんな事を思っている俺の考えも、きっと兄貴にはお見通しだ。
「慶兄こそ。疲れたまってんだろう」
さらには、やっぱり俺がこう言ってしまうという事も。
「分かってんなら連絡しろ」
「…ハイ」
俺が黙っておけない性格だなんて、兄貴からしたらお見通しだから逆に楽だ。
だからなのだろうか。
やたら口が滑ってしまうのは、俺の性格なのか、兄貴と言う存在なのか。
ポロッと、とんでもないネタを提供してしまうんだ。
「慶兄彼女は?」
「…お前、今まで俺の女関係に興味なんて持った事、あったっけ?」
そう。こうやって自ら墓穴を掘る。