**confection**
クラスメートの自己紹介は順調に進み、その間も、興味もなくただボーッと自分の思考に浸る。
意識してしまう、俺の左側。
周りが笑ったりしている中、ももからは何の気配も感じない。
気になって仕方ない俺は、チラリと横目で視線を向けてみた時、思わず見とれてしまいそうになり視線をすぐに戻した。
人を写さないその横顔に、何か思い詰めたような物すら感じる。
その冷めた視線でさえ、俺の心をめちゃくちゃに鷲掴みしてしまうんだ。
知りたい。その瞳が意味する理由。
なんでそんなに…悲しそうな顔をするのかを。
その時、俺を揺さぶる腕に、意識を覚醒させた。
……え??
視線を向けた先には、少し焦ったような顔をしたももが、俺の腕を掴んでいた。
「るぅちゃん!!るぅちゃんの番だよ!!」
「…えっ」
パッと視線を上げると、絡まる沢山の視線。
すっかり自分の中に閉じこもってしまっていた俺は、その沢山の視線よりも、ももの視線に固まる。
コソコソと囁くように潜めた声が、俺を俺じゃなくさせる。
「松風、固まってないで早く前に出てこい」
「あ…はい〜」
ようやく担任の声が耳に入ってきて、俺は解凍される。
笑い声に包まれながらも、そんなモンに臆することもなく前へと出る。
散々受けてきた意味の分からない視線のおかげか、どんな視線にも気にする事もなくなった。
でも今は、何だかむず痒い感覚が俺を支配する。
多分それはきっと、もものせい。
教卓の前に立ち、辺りに目を向ける。
沢山の興味の目が、今まさに口を開こうとしている俺を、様々な目で見つめている。
「え〜…と、松風瑠衣斗です」
女の色目、嫉妬の色、何だか怖いモンでも見ているような目。
その全ての中に混ざるように、もものあの瞳が、俺を捕らえていた。