-アンビバレント-


箱の中からきれいな巻き貝を取り出した。


耳に当てると波の音が聞こえる。



10年ほど前の写真はもう色褪せて、黄色くなっている。



あたしはポケットからイルカのキーホルダーを取り出した。


それをゆっくりと箱のはじっこに入れると

その箱の蓋をきっちりと閉めた。




高校のときの彼は、今でも好きと言えば好きだった。


もしかしたら嫌いではないだけで、好きではないのかもしれない。



でもやっぱり彼とお揃いで買ったイルカのキーホルダーを


安易にこの『思い出箱』に入れるわけにはいかなかった。



まだ『彼』という人間が浅くて

『過去』にするのには時間が必要だった。





あたしの心を元に戻すための時間が。







< 105 / 110 >

この作品をシェア

pagetop