-アンビバレント-
箱の中からきれいな巻き貝を取り出した。
耳に当てると波の音が聞こえる。
10年ほど前の写真はもう色褪せて、黄色くなっている。
あたしはポケットからイルカのキーホルダーを取り出した。
それをゆっくりと箱のはじっこに入れると
その箱の蓋をきっちりと閉めた。
高校のときの彼は、今でも好きと言えば好きだった。
もしかしたら嫌いではないだけで、好きではないのかもしれない。
でもやっぱり彼とお揃いで買ったイルカのキーホルダーを
安易にこの『思い出箱』に入れるわけにはいかなかった。
まだ『彼』という人間が浅くて
『過去』にするのには時間が必要だった。
あたしの心を元に戻すための時間が。