天使の降る夜
もうこれ以上、恭を守ってやることが出来ない。
それは恭の新たな恋人の役目。
まだ見ぬそいつに頼むしかないと解ってはいるが、沙夜斗は激しい嫉妬を憶えずにはいられない。
そんな自分に心の中で苦笑する。
親戚や教師すら見限った自分を、精神込めて愛してくれた恋人。
自分を見失ってしまうほど、愛している大切な人。
幸せになれ、そう祈ってやまない。
沙夜斗は目を閉じる。
不思議と、死への恐怖はなかった。
目を閉じても、瞼の裏に浮かぶのは、恭の顔だから。
沙夜斗の一番好きな恭の笑顔だから。
―シアワセニナレ―
そう願いながら、沙夜斗は恭との思い出に浸りながら、ゆっくりとオチテイッタ。
恭は、温もりを失いつつある恋人の身体を、じっと見ていた。
何かを感じて、ふと後ろを向くと、窓の近くになにかが光っていた。
なんだろうと思って近づくと、白く薄い、青みが掛かった小さな羽。
「天使の・・・は・・ね・・・」
恭と沙夜斗の願いが届いたのだろうか?
沙夜斗は、本当はもう死んでもおかしくなかった?
さっきのは、天使がみせた幻?
恭の目から涙があふれる。
―すごくすごく沙夜斗が愛しくてならなかった―
―すごくすごく沙夜斗に抱きしめて欲しかった―
―すごくすごく沙夜斗の笑顔が見たかった―
―すごくすごく沙夜斗の声を聞きたかったー
なぜだかわからなかったが、急に愛しさが湧起こって止まらなかった。
なぜだかわからなかったが、急に淋しさが込み上げてきて、止まらなかった。
声をあげて泣きじゃくる恭の手には、一枚の羽が握られていた。

< 12 / 13 >

この作品をシェア

pagetop