天使の降る夜
「――天使の羽には不思議な力があるんだとさ」
「この絵本の話?」
沙夜斗は頷く。
「不思議な力っていうのは、時を止められるんだ」
「時?」
「死んだ後この世を去る前に、遠く離れた恋人に思いを告げたいと、男が必死に神に祈る。すると、それを見ていた神の御使いである天使が、自分の羽を一枚とって、男が気づかないように渡すんだ。……すると男は一時の時間を手に入れ、恋人のもとに別れを告げに行くことが出来た。そして恋人の手元には、青みがかかった一枚の羽だけが残った」
沙夜斗は絵本の内容を、恭に語った。
「……悲しい話なんだ・・・」
「そう感じたか?」
沙夜斗は自分にもたれ掛かってきた、恭の肩を軽く抱く。
恭は沙夜斗の肩に、頭を乗せる。
「今が幸せだから。……俺は嫌だよ、沙夜斗が死ぬの」
「縁起でもねぇこと言うなよ、おい」
沙夜斗は、恭の言葉に苦笑する。
「不安……消してやるよ」
耳元で囁き、恭を床に倒し、沙夜斗は服を脱がしていった。

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