天使の降る夜
 新宿二丁目のゲイバー・ミスティで飲んでいると、一人の男が近づいて来た。
「あんた一人?」
見て解るだろうと思ったが、頷く。
すると男は、勝手に隣の席に腰を下ろす。
「俺は相川 沙夜斗、二十七歳。女みたいな名前だろ」
ウイスキーを片手にニッと笑う。
恭は、男のその強引さに眉を顰めながらも、その皮肉な笑みに胸がときめいた。
「久我 恭、二十三歳。中学でグラマー(英文法)を教えている」
ゲイバーでコミュニケーションをとることは、よくある事なので、恭は自分のことも軽く教えた。
それになんといっても、相手が好みのタイプだった。
これが、腹の突き出たハゲ親父だったら、こっちから願い下げだが、歳も手ごろだし、遊びで割り切れそうなタイプだったから、その時は軽い気持ちで応じたのだった。
「ふぅん、あんた教師なんだ」
「なったばかりの新米教師だけどね」
恭は、沙夜斗の台詞に苦笑しながら付け加える。
自分が教職員だというと、必ず相手は驚く。
そんなに自分は幼くみえるのだろうか。
学校でも生徒の、友達感覚に悩まされているというのに……ため息の一つでもつきたくなる。
……そのまましばらく二人で、当り障りのない話をしていた。
初めて会ったというのに、すぐに意気投合をした。
・・・だからだろうか、そのあとの『ホテルに行こう』との誘いにも、恭には拒否する理由が見つからなかった。そして二人で、それと分かるホテルへ足を踏み入れた。
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