天使の降る夜
「沙夜斗ったら激しいんだもんなぁ」
前方の信号が青になり、アクセルを踏む。
「……そのあと何度も会って、何度も寝て――恋人になったんだよな」
恭の頬が、フロントガラスから差し込む夕日とは別に、赤く染まっている。
セックスフレンドから恋人になるときの台詞も、強引な沙夜斗らしかった。
「『俺の恋人になれよ。もっとよがらせてやる』だもんなぁ」
恭は後にも先にも、そんな台詞で口説かれたことは一度もない。
でも恭は、彼のそんな強引なところに惹かれた。
自分の全てを受け止めてくれる、そんな安心感に包まれたかったのだろう。
そしてしばらくしてから、同棲の話をもちだされた。
彼が渡したマンションの鍵は、今もなお、恭のキーホルダーに下がっている。
恭は、車のキーと共に下がっているその鍵を握る。
今はもう手に馴染んだその鍵を、初めて貰った時は嬉しくて、一日中眺めてはにやけていた。
隣の席の先生に、変な目で見られたこともあった。
「沙夜斗の名前を綺麗だと言ったこともあったっけ」
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