天使の降る夜
沙夜斗は実の両親と死別している。
両親は駆け落ちして、一緒になった夫婦だった。
世間体を気にする、厳格な家柄だった父の家からは縁を切られた。
母親の方は既に両親とも他界していた。
後ろ盾のない母親を、たとえ子を宿していようが父の両親は許さなかった。
それでも二人は強く一緒になりたいと望んだ。
だから二人は、家を出た。
しかし神は時に残酷だ。
沙夜斗が三歳のとき、家族旅行の途中で対向車との接触事故が起こった。
そして両親は、まだ年端もいかぬ沙夜斗を残し、天へと召されてしまった。
二人仲良く、手を取り合って……。
沙夜斗は父の両親に引き取られたが、祖父母は彼に冷たかった。
それは沙夜斗が、母にとてもよく似ていたからだろう。
沙夜斗は一人でご飯を食べ一人で寝ることを、自分で自分のことをすることを、余儀なくされた。
そして何かといえば母の悪口、そして沙夜斗自身への冷たい言葉を浴びせられ続けた。
そんな子供が屈折しないはずもなく、沙夜斗は学校でも孤立した。
不良グループからも一目置かれる存在となり、家に帰らず喧嘩の毎日だった。そして悪巡廻。
彼は誰とも心を交わすことなく生きてきた。
だから彼は初めてだった。
敵意を感じず、本気で付き合えた相手は。
沙夜斗は恭に、強い愛と共に独占欲を覚えた。
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