カカオ100%



 信号に渡る前に、車は脇道にそれたっていうかそらした。


 お兄ちゃんの所へ行くために。


 お兄ちゃんは未だに心配そうな顔でこちらに向かって手を振り続けている。


「お兄ちゃん?何でいるの!?」


 ばたんと乱暴に開けた車の扉から急いで降りる。


「あ、伊織!大丈夫かっ?何もされなかったか!?」


 降りるなり、お兄ちゃんに肩を掴まれがくんがくんと揺らされた。


 リアルに脳みそがぐらぐら揺れる。


「お兄ちゃん。大丈夫だって」


 心配しすぎだってば。
 あたしももう高2なんだからさ。


「本当か!?何もされてないんだな!?」


 肩を揺らされ、首もがくんがくんと揺れる。

 これは多分お兄ちゃんのクセなんだと思う。

 もぉ、しつこいって。

「も、お兄…」


「おい光輝。放してやれよ」


 謎のイケメンが車から降りるなり、お兄ちゃんに向かって口を開いた。

 お兄ちゃんは目線をその男にちらりと向けた。


「おい、りっくん!伊織に何もしてないだろうな!!」


 お兄ちゃんのその台詞よりも、その男の呼び名の方にびっくりした。

 り、りっくん!?


「その呼び名で呼ぶなって言ってんだろ!」


 りっくん。もとい、その男は声を張り上げた。



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