カカオ100%



「あ、うん」


「じゃあ俺達も帰るか。母さん達待ってるし」


 そう言って、二人とぼとぼ歩きだした。


 お兄ちゃんはあたしの一歩前を歩く。


 お兄ちゃんは歩きだったらしく家から走ってきたと言うのだ。


 ここから家までは結構距離があると思う。

 体力だけはあるんだと少しお兄ちゃんを見直した。


 なんだったんだろう。 いったい。


 というか。
 あたしのファーストキスを返せ――!!!


 な―んて心の中で叫んでみてもあたしの一生に一度のファーストキスは返ってこない。

 忘れよう。


 もう会うこともないだろうし。


 あんな奴とのキスなんかキスなんかじゃない!
 ただ唇がぶつかっただけだ。

 事故だ。事故!
 うん、そうだ。


 ジャリ ジャリと小さな音を響かせながら、お兄ちゃんと二人静かなじゃり道を歩く。


 お兄ちゃんは携帯をいじりながら足を進めている。

 あ、そうだ。

 思いつき、ポケットに手を入れる。


 さっき貰ったチョコレートの包みを剥がし、1粒口に入れる。


甘い味が口の中に広がる。

 ん、おいし。


 さっきのことなど忘れてルンルンで歩き出した。


 あたしは何もわかっていなかった。



 すでに、あの男の罠にかかっているなんて。




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