【SR】メッセージ―今は遠き夏―
見知らぬ男
バスが来ない。
到着予定時刻をとうに過ぎていると言うのに、未だに百夏(ももか)はバス停の前で立ったまま、腕組みをしていた。
そこから15分ほど歩けば地下鉄へ乗ることができるのだが、今日は10センチのヒールを履いている。
とてもじゃないが、歩いて移動する気になどなれない。
――やっぱり、選ぶ場所を失敗したか。
今の住まいに引っ越してまだ2週間ほどだが、百夏は早くも挫折しそうになった。
街の外れではあるが、住所的には都心部であるというのは、やっぱり気分がいい。
築10年というのが少し気になりつつも、停留所が目の前にあるのが決め手で今のマンションへと移り住んだ。
難点は、バスの運行本数が少ない路線であるということ。
しかも、繁華街を抜けて来るせいで、遅延は日常茶飯事だ。
そのくらい、我慢できる。
そう軽々しく思った自分を、今は激しく後悔する。
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