【SR】メッセージ―今は遠き夏―
しかし。
いくらなんでも、結婚の話まで出ていた男のことを忘れるなんて、あり得ない。
それに、働いていたと言う、その場所――。
「『ミスティック』って、何?どこにあるの?」
繁人はもう、たいして驚かなくなっていた。
「スナックだよ。小樽運河の近くの」
「……小樽?北海道の?」
「ああ、そうだ。まさか、北海道に居たってことも否定するわけ」
「……だって、行ったこと無いもの……」
「そんなわけないだろ?そこまでシラ切り通すのかよ」
人違いをしているのではないのだろうか、と百夏は思った。
名前が、偶然一致しただけの――。
一向に噛み合わない二人の会話は、次第にお互いを苛立たせるばかりだった。