【SR】メッセージ―今は遠き夏―
引っ越したのにはいくつか理由があった。
一番の大きな原因は、前の住まいでの隣人とのトラブルだ。
トラブルと言っても、百夏は被害者の方である。
壁の薄い隣からは、毎晩のようにいびきが聞こえ、ひどい時には、酔って帰宅した隣人の嘔吐する声まで聞こえてくる。
そのくせ、百夏が夜中にドライヤーをかけようものなら、わざわざインターフォンを鳴らして注意してくるのだった。
チェーン越しに、ただ謝るしかなかった百夏は、自宅で気が休まらない日が増えていくたび、徐々に気持ちが滅入っていった。
それが右隣の住人ならば、左隣の住人はよく男を連れ込むらしく、しばしば甘ったるい喘ぎ声が漏れてくる。
背の高い、モデルのような美しい女性だったが、いくら綺麗な人でもそんなものを聞かされてあまり良い気分はしない。
さらにその女性の向こう隣の住人は、青白い顔でいつもクマがくっきりとした、気味の悪い男。
直接の被害はなかったが、いつ何をしでかすかわからない、ただならぬ雰囲気にいつも恐怖の眼差しを向けていた。