【SR】メッセージ―今は遠き夏―
ところどころ壁のはげ落ちた、古い雑居ビルの前で繁人は足を止めた。
「おお!まだあるみたいだぞ。
見ろよ、汚いけど『ミスティック』って外看板、現役みたいだもんな」
廃墟にはなっていないらしい。
地下へ通じる階段には掃除した跡が見られ、降り口には、ところどころ葉の枯れた観葉植物の鉢が置かれていた。
雑草も綺麗に引き抜かれ、このビルに今も人の手が入っていることを物語っている。
「でもこの時間じゃなあ……。さすがにママもいないよ。携帯の番号も知らないし、困ったな。
仕方ない、飯でも食って出直してくるか」
時計の針は午後一時を回ったところだ。
あと数時間は誰も来ないだろう。
コクリと頷いた百夏に、申し訳なさそうな顔で繁人が尋ねた。
「……なあ。この辺りとか看板見て、なんかヒントになったか?」