【SR】メッセージ―今は遠き夏―
百夏は、ゆっくりと首を横に振った。
「ううん、やっぱダメみたい……」
薄々予想はしていた。この先も、思い出せる気がしない。
せっかくここまで来たけれど、食事を済ませたら帰ってしまおうか――。
不安そうな表情を浮かべたのを見て、繁人は歩み寄った。
「まあ、まだ時間はあるんだから。
のんびり行こうぜ。……さあ、飯行こう」
――そっと、百夏の手を握った。
手のひらから伝わってくる、繁人の優しさを感じて、百夏はようやく冷静になった。
あの日、繁人に声を掛けられなければ、今日もいつも通り生活をしていたはずだ。
辛いとか、不安だとかいう気持ちに、押しつぶされることもなかっただろう。
でも、声を掛けてくれたことは単なる偶然ではなく、必要があったから――そんな気がしてならないのだ。