【SR】メッセージ―今は遠き夏―
寒気に襲われ、百夏は身体を震わせた。
きっと、偶然などではない。
バス停で自分と繁人を引き合わせたのは。
記憶がなくなったと勘違いさせて、ここまで連れてきたのは。
間違いなく、千夏のしたことなのだと――。
「なんで今頃だったんだろうな」
墓前で手を合わせたあと、立ち上る線香の煙を見つめながら繁人がつぶやいた。
「本当に、あっちでお母さんと会えたのかもしれないね」
離婚した後も『大澤姓』を名乗り続けたのは、母からのささやかなヒントだったのかもしれない。
――秘密の箱の奥底に閉じこめた双子の妹を、いつか捜し出すための。
墓石に刻まれた『大澤家之墓』という文字を見つめ、百夏はもう一度手を合わせた。