【SR】メッセージ―今は遠き夏―
辿れない糸
男は、グレーのスーツを身にまとい、手には薄っぺらな鞄を手にした、20代後半のサラリーマンだ。
一瞬、会社の他部署の人かとも思ったが、それならば馴れ馴れしく「モモカ」とは呼ばないし、元気かなどと尋ねるわけがない。
返答に困った百夏は、その男の顔を見つめることしかできなかった。
知り合いだったら本当に失礼な話だが、誰なのか知らないまま挨拶するのは、もっと気が進まない。
「おいおい、そんなに不信そうな顔をするなよ。周りの人間が勘違いするだろう?」
眉間にしわを寄せ、じっとしている百夏に男は慌てた。
「もしかして、俺が誰だか分からない?」
「えっと……実はそうなんです、ハイ」
「えー、マジで?そんなに変わってないと思うけどなあ。
……繁人だよ。蒔田繁人(まきたしげと)」
がっかりしたその男には申し訳ないが、フルネームにもやはり心当たりはなかった。