最 後 の ラ ブ レ タ ー 。
第一章 ◇ 付き合い

「ふざけないでよ!」


 気がついたら私は大吾の頬を思いっきりぶん殴ってた。

 まさか自分がこんな事をするなんて思ってもみなく、自分で自分に驚いてしまった。

 目の前には、殴られた衝撃で地面に尻をついている大吾の姿。

 大吾は口をポカンとさせて、唖然としている。

 そんな大吾に向かって、私は言い放った。


「どうせ私の事からかってんだろ! すぐ落とせる女だって! 私の事甘く見んなっ!」



 そう怒鳴り捨てると、私はその場から走り去った。

 その姿を大吾は、ひりひりと痛む頬に手を当てぼんやり眺めていた。


 翌日――


「どうだった? 昨日の帰り♪大吾君と楽しくおしゃべり出来たのー?」

 学校に着くとすぐに親友の真央が尋ねてきた。
 

「もー最悪だった」

 
 昨日の事すべて忘れてしまいたい。

 だいだい、付き合って初日に(っていってもあんな……ノリで付き合い始めた関係なんて、付き合うっていうのかなぁ)キスを迫ってくるなんて最低最低最低!

 きっとあいつ、いっつも女と付き合うとあんな感じなんだ……。ほんっと軽い奴。


「ちょっと、愛……顔真っ赤だよ? さては、大吾君の事で頭がいっぱいなんだな」


 真央はニヤニヤと私の顔を一瞥する。


「ふざけないでよ! 誰があんな奴のことなんか……」


 確かに、大吾の事で頭がいっぱい――なのは違う意味で当たってるけど。

 だって昨日ずっとあいつの事考えて、怒りが爆発しそうだったから。
 

 許せなかった事は、私の事なめてるからだけじゃない。

 一番悔しかったのは、私にはまだ、ファーストキスをした事がないからだ。

 少し遅れていたら、私の〝初めてのキス〟をあんな男に奪われてしまう所だった。


 ガラッ――


 教室の扉を開ける音と同時に、クラスのみんなの視線が扉一点に集まる。

 スラッと伸びた長い足、だらっと着崩したワイシャツに、ツンツンに伸びた茶髪、銀色のピアス、怒りに満ちた表情――……怒りに満ちた、表情。怒りに、満ちた。ん? 怒りに満ちた?


「おい、瀬戸愛呼んでくれ」







 ――大吾の姿だった。







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