今宵、月の照らす街で
「兄さん…?」


明奈は無意識に、虚空に手を伸ばす。


明人は、そんな妹を見向きもせず、手にしていた薙刀に波動を宿した。


「隊長、下がって!!!」


スタッフの一人が明奈に飛び付く。


明人の、波動を帯びた一太刀が、明奈と廉明が寸前までいた場所を綺麗に切り裂いた。


「…なんで?」


涙で視界がぼやける。


だが、兄の顔はハッキリと見える。


「兄さん!!」


見た事の無い、紅く狂気に満ちた瞳が、明奈の眼を覗く。


―――兄さんじゃない…


その眼は数多の生を止めてきた瞳。


「明人は…既に手遅れ…だ…何かに憑かれてる……!」


廉明が震えた声で言う。


「明奈…!お前は退魔師だろう…?」


―――嫌。


その先は言わないで…


「明奈!」


廉明の言葉の意味が、明奈には読めた。しかし、信じたくない気持ちが強くなる。


だが、現実は、辛い事ばかりを押し付ける。


「明人の為にも…殺すしかないんだ!」
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