今宵、月の照らす街で
紘子は最後まで納得しなかった様子だったが、姉の話を聞いて、療養に専念すると決めたようだ。


しばらく3人で話してたが、面会時間も終了になり、多香子と成二は帰路ついた。


「なんか3人じゃないのって…なんかヤダ」


帰り道に呟いた言葉に、多香子がきょとんとした。


「たか姉は嫌じゃないの?」


「もちろん嫌よ?なんか寂しいもの」


少し安堵が混じったような、寂しさの混ざった表情を、多香子は浮かべた。


「早く3人でご飯食べたいね」


二人はふと空を見上げた。


何気ない、こういう時間を家族で過ごすのは久しぶりだった。


何もない平穏な日。


しかし成二にとって、それは苦痛でしかない。


―――任務をこなして虚しさで心を満たす方がまだいい。


少なくとも、それは成二にとって、思い出したくない過去から逃げる為の唯一の道だった。
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