今宵、月の照らす街で
秋葉原電気街。


道路を走っていた車は残骸となって転がり、コンクリートに広がる鮮血は黄昏に彩られる。


周囲に立っている人間は桜以外誰一人としていなかった。


有るのは…異常な“陰”に耐え切れず、その衝撃で砕けた肉体。


―――守れなかった…!


桜の胸に残るのは、たった一言だが、とても大きな後悔だ。


これ以上被害を拡げない為に、桜は改めて“陰”と向き合う。


“陰”は不安定な形から一度小さく丸まり、人型の形を取る。


「…如月…か?」


“陰”が言葉を発する。


今まで、霊体が言葉を発する事など前例が無い。


「…そうだけど」


桜は内心、大きな衝撃を感じながらも平常心で対応する。


「何故、私の家名を?」


桜が問い掛けると、“陰”はニタッと笑った。


「神の血筋は美味いんだ」


全身が危険、という警鐘を本能的に鳴らした。


だが、もはや逃げられない。


桜は獲物を見据えるかの様な敵の瞳に既に捕捉されていた。


「いただきま〜す」


“陰”の口が、ガバッと大きく開いた。
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