今宵、月の照らす街で
『只今、一階ロビーで火災が発生しました。みなさんは各部署の指示に従い、落ち着いて避難してください…』


サイレンは止むことがない。


「庁長官。廉明長官。私も出ますので」


多香子は立ち上がる。視線はディスプレイに向いていない。


『待て!小沢君!』
『まだ話は終わっていないぞ』


「ごめんなさい。私は室長である前に退魔師なんです」


多香子は、そう言い残して室長室から離れる。


ディスプレイの中の老人たちはその姿に無言になった。


『あれが小沢…いえ、小龍沢家を統べる者の決意なんです。許してもらえますか?』


主のいない室長室の、今まで点いてなかったディスプレイが点き、優しい声がした。


その声の主は蓮舞天照院家当主・時宮。


『へ…陛下!』


会議に参加した全ての人間が立ち上がり、頭を下げる。


『楽にして下さい。多香子君は己の戦場へと向かいました。私たちも国民のために尽くさなければなりません』
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