今宵、月の照らす街で
庁舎のエレベーターは機能を停止していた。


今すぐ駆け付けなければ、恐らく庁舎は倒壊してしまうだろう。


それほどの霊圧が多香子の肌を刺激していた。


多香子はエレベーターを諦めて近くの窓を開ける。


そして18階の高さから、空へと身を投じた。


地面がすぐそこへと近付く。


「嵐紋菊一文字…!」


多香子の声に反応し、長刀が現れる。


小龍沢の紋章を刻んだその刀は荒れ狂う風を巻き起こす。


しかし、中心では優しい風が当主を包み込み、庁舎の玄関へと多香子が舞い降りた。


中に入り、ロビーを見渡す。


あるのは死体と、滴る血。


そして…


「室長…これから殺しに行こうと思いましたが…」


「梅宮くん…?」


梅宮の手に握られた刀を染める血と、全身に浴びた返り血。


「説明してもらえるかな…!」


多香子の眼が鋭くなる。


「説明…か…貴様は死ぬのだから…必要はない」


“陰”を身に纏う梅宮。特異点を観測する程の力が梅宮に集まる。


“陰”は殺気を乗せて多香子を襲う。だが、多香子は一歩も退かない。


「質問に答えなさい、梅宮カオルっ!!」


ロビーが、小龍沢の“風”の気が巻き起こした突風で支配される。


窓は全て割れ、数十kgもある瓦礫が、簡単に風に飛ばされた。
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