今宵、月の照らす街で
鯉口を切り、鞘から刀を走らせる。


走ったまま繰り出される剣一郎の抜刀術は、焔をブースターにして加速する。


「おっと」


「!!!」


剣一郎の刀が、アルファの右手にたやすく止められる。


抜刀術は、日本刀剣術の中でも最速の部類に入る。


しかも剣一郎の剣術は、真紅の波動で爆発的に加速・強化されている。


その事を知っているからこそ、剣一郎本人と紘子には、眼の前の状況が理解出来なかった。


「すごい早いね、君の剣術」


アルファはヘラッと笑う。


「………皮肉かよっ!!」


“火”の気の発現を急激に強め、爆炎にも似た波動を展開する。


剣一郎はそれを利用して間合いを作り、体制を整える。


抜刀術が無効だと悟り、鞘を置いて刀を構える。


一歩踏み込もうとすると、アルファが剣一郎の隣に立っていた。


「…!!!」


「じゃあ今度はオレね」


アルファの左手には、剣一郎の刀に似た、黒い長刀が握られていた。


剣術を見抜かれ、スピードすらも眼で捉えられない。


―――敵わない…!!


まだ一度しか攻撃をしていないが、剣一郎の脳裏はアルファとの実力差に絶望しか浮かばなかった。
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