今宵、月の照らす街で
闘いに快感を見出だした様な兄の言葉に、明奈の眼から、涙が止まらなくなる。


「もう…止めてよ…」


嗚咽を漏らす明奈の言葉は、二人に届かない。


明人と成二は、再び激突する。


明らかに精度の増した成二の闘いと、人としての形を失いかけた兄の姿。


いくら兄の死を思い出し、眼前にいる兄が、兄ではないと思い込ませても、心の中では否定しきれない。


大切な、たった一人の肉親が、大事な弟子と殺し合いをしている事実が夢ならば、と明奈は願う。


そして、膝をついてうなだれる明奈の近くに、現実を突き付けるかの様に、成二が叩き付けられた。


「ぐぁっ…!!」


「せぇじ!」


成二を起こす明奈を余所に、成二は右手を空に掲げる。


108の大剣が反応し、成二と明奈の前で壁を為した。


追撃してきた明人は、薙刀に全ての“陰”を宿し、振り下ろす。


大剣の壁が崩れ、明人の姿が大剣に紛れて現れた。


「きゃっ…」


成二は明奈を抱き寄せて、成二の持つ大剣の中でも最大のものを呼び寄せ、波動を宿す。


そして、二人の波動を宿す武器が真っ向からぶつかり、辺りに衝撃波が拡がった。

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