今宵、月の照らす街で
「ぐっ…」


明奈を庇っている為、思う様に一撃を繰り出せない。


明人は容赦なく力を込め、成二を切り落とそうとする。


目の前に飛び散る波動に、明奈の瞳からは、涙が止まらなかった。


「もう止めてぇぇぇ!!」


明奈の想いが波動となって発現し、突風が吹き荒れる。


明人は風に煽られて宙を舞い、再び死神を出したまま、空に静止した。


「明奈さん…」


胸の中で叫んだ師に、視線を落とす。


明奈は成二の腕をそっとどかし、涙を拭いて立ち上がった。


「あなたが闇に染まったのは充分理解しました。それならば、春日の恥は、当主である私が拭うわ!」


明奈の決意に呼応して、春日家の者が宿す、黄昏の波動が明奈を包む。


兄を再び殺す覚悟。


それは、明奈が兄を大切にしているからこそ、自らの手を汚してまでも終わらせたいと言う願い。


師が言葉にしなくても、涙に濡れた瞳が全てを語っていた。


「せぇじ…力を貸してね」


明奈の言葉が、微かに震えていた。


―――怖いんだな…


成二は何も言わずに明奈の隣に立つ。


「貴女の仰せのままに」


そして、成二も風を身に纏った。
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