今宵、月の照らす街で
「お疲れ様」


明奈が瞳を閉じた。


両手に集中した明奈の波動は、既に月が出た夜を明るく照らす。


明奈の足元には、大きな8本の龍の首の紋章が浮かぶ。


「それはっ…!」


動けない明人が、その紋章の意味に、焦りを見せる。


「春日静水流奥義」


明奈が印を組みながら、腕を交差させる。


「大蛇[オロチ]」


遥か昔に須佐之男により斃された、古龍。既に“無”と変わったその存在を、時空を経て再び蘇らせる。


明人は、その意味をよく理解していた。


春日家の波動の持つ特性。それは、無から有を生み出す力。


既に無と変わった存在が、動きを封じられた明人を喰らう。


8本の首が明人を捉えた時、夕暮れの様な淡い光が、夜空を照らす。


空を見上げていた明奈は、その光景から顔を背け、俯いた。


赤みかかったその頬には、明奈の繰り出した奥義によって輝いた淡い光が、小さな雫が一粒、流れていた。
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