今宵、月の照らす街で
千代田庁舎地下。


エレベーターを降りた前に伸びる、白い廊下の先の扉を開くと、呪符に手を巻かれた葉月が座っていた。


「飯、食ったか?」


成二は葉月に声をかけた。当初はショックから何も喉を通らなかった葉月だが、今は普通に戻りつつある。


「うん」


葉月は、誰とも視線を重ねなかった。それは成二と明奈も例外ではない。


「いつまで私は空を見れないの?」


「今、梅宮の尋問も続けてる。それが終わればすぐに解放するよ。約束する」


「せーちゃんも、明奈さんも、私を疑ってるんでしょ?」


葉月の声が震える。


「今日だって、何か期待して来たんでしょ?」


「そんな事無いわよ?貴女が心配だから…」


「それならどうして、私が無実だと信じてくれないの?」


「信じてるわ!でも、それでもまだ…自由にさせられないの」


「明奈さん、矛盾してるじゃない!」


葉月の視線が、初めて人の眼を捕らえる。その瞳は歪み、眼の下にはクマがある。


その表情に、成二と明奈の口からは何の言葉を出す事も出来なかった。
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