今宵、月の照らす街で
一件から4日。


宗家に挨拶したらのんびり東京に帰ろうかと思ったものの、あの一件が尾を引いて未だ京都にいる。


「結局何もなかったな」


皇居の入口・南天朱雀門に立ちながら思わず溜息が出た。


「まぁ…外交官とか首相のいる中で、何も無いのは喜ぶべきじゃない?」


隣でサングラスをかけた紘子は門に寄りかかり、軽く膝を曲げて腕を組む。


「それにしても…あの式、見た事ないわ。見えないなんて…」


―――確かに。


今まででも異能の力を持った者と闘った事はある。


ただ、相手はしっかりと見据える事が出来た。


今回の様に、何も見えない術だけを相手にした事は無い。


「…こー姉」


「なぁに?」


言うのを躊躇ったが既に名を呼んだ後だったから、勢いに任せて一言、告げた。


「嫌な予感がする」
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