今宵、月の照らす街で
「はいはーい、たかこ〜、戻ったわよ」


連絡を受けた明奈が少し急ぎ足で戻ってきた。次いで成二も部屋に入る。


「明奈さん、早速ですが千鶴からの報告書を読んでください」


多香子が執務デスクに黒いファイルを載せる。明奈は口を閉じてそれを手にした。


「…」


「何かありますか?」


明奈は多香子の質問に答えない。


「…やっぱ私が行きますか〜」


「え?」


「アイツ、隠し事する時、唇舐めるのよ」


明奈が黒いファイルを指差す。明奈の言葉に、部屋にいる多香子、あずさ、杏里、成二が近付く。


「これ…?」


それは千鶴が“長官”の名前を口にした時の仕草。


報告書に記されたその単語は、全19枚の文書の中に多く散りばめられていた。その中にある、2回のそれに対しての反応。


明奈はそれを見抜いてファイルを多香子に渡す。


「千鶴の読み通りね。最初から私が行かない方が、尻尾を出してくるなんて。せぇじ、おいで?」


「あ、はい」


明奈が勇み足で一歩を踏み出した。


「あずさちゃ〜ん?千鶴に連絡してね。今から行くって」


「了解しました」


明奈はもう一度扉を開けた。


「馬鹿カオル…何でこんな事に巻き込まれてんのよ…」
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