今宵、月の照らす街で
開いた扉を、続く成二に渡した時の明奈の顔は、少し強張っていた。


疑念のかかった元同僚との面会を拒んでいたが、自ら望んで梅宮との対面を求めた。


それでも、心中穏やかでは無い様子が、弟子に伝わる。


元々、気ままに行動するが、どこか過去や自らが望まぬ現実に眼を背けていた明奈。


その姿は先日の兄との闘いの日を境に消え、振る舞いは変わらずとも、決意を込めた態度に変わった。


それでも、エレベーターに入った時の表情は暗い。成二は明奈を見つめ、師の心中について考えにふけった。


突然、ポーン、と電子音が響く。


先程来た、葉月のいるフロアだが、また別の部屋に、梅宮カオルは拘束されていた。


廊下に面する監視室に入った明奈と成二を、千鶴と剣一郎、結衣が迎える。


「来たのね」


千鶴が少しだけ視線を投げたあと、ガラス越しで、手足に呪符と拘束具を巻かれた梅宮カオルが座らされていた。


「ちょいと話してくるね」


明奈は千鶴の隣を通る。ガチャリ、と重い扉を開けて、明奈は元同僚と向き合った。


「成二くん、来たんだ」


結衣が声をかける。


「明奈さんからの指名です」


「…きっと、なにか学ばせたいんだね」


「?」


首を傾げる成二に、結衣は明奈を見つめていた。


「盗めるだけ盗みなさいな。師の背中をね」
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