今宵、月の照らす街で
窓の外には、既に月が浮かんでいた。


「成二くん、桜、行くよ?」


「あ、はい」


成二が結衣を追いかける。少し駆け足になった時、首根っこから引っ張られた。


「ぐぇっ!?」


「あ…ごめん」


むせ返る成二に、明奈がキョトンとする。


「あ…明奈さん…何ですか」


「せぇじ、また別々だけど無茶しないでね?」


「…明奈さんも」


「師匠に生意気な事言わないの!」


明奈が笑顔になる。


「さ、結衣が待ってるわ。結衣は八龍一の術師よ。その眼で見て、しっかり学びなさい」


「はい」


成二は頭を下げて、結衣の所へと向かった。桜もゆっくりと二人に合流する。そして、対策室の扉を閉じた。


「多香子」


閉ざされた扉を見つめていた多香子に、千鶴が近寄る。


「桜…大丈夫なの?最近、よくわからないけど、口を閉ざしたまま。任務に影響が出るんじゃない?」


「あ〜…」


多香子は扉から視線を外さなかった。


「確かに心配かも」


苦笑いの多香子に、千鶴は溜息をついた。


「なら、何で行かせるのよ?」


「う〜ん…根拠は無いんだけどね」


「?」


「結衣なら、何かしてくれるんじゃないかって期待…かな?」


「…なるほどねぇ」


多分、適当な言葉では無い。多香子の、人を見る目はズバ抜けて優れている。千鶴はそれを知っているから、多香子の期待を信じてみる事にした。
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