今宵、月の照らす街で
『陰の柱から霊力減退確認、結界の遮蔽力も落ちています。成功です!』


あずさの声に、5人が安堵の息を漏らした。


『え…?ま…待ってください!』


あずさの焦りと同時に、江戸城迎賓館上空に、陰の渦が現れた。


「何…あれ…」


そして、目の前の黒い、陰の柱が、鮮血の色に染まる。


『室長!新たな霊的特異点発生!!観測予測値レッドゾーン突入!』


多香子の本能が、けたたましく警鐘を鳴らした。


「みんな、庁舎に戻って!!あずさちゃんは結衣、杏里さんに連絡!仮庁舎に緊急障壁を展開して!」


多香子が駆け出しながら叫ぶ。仮庁舎では多香子の指示に、結衣と杏里が緊急障壁を発動する。


八龍と室長しか使えない、緊急防御壁は、唸りを上げて起動した。


それを見計らった様に、陰の渦から紫電が疾った。


それは障壁を貫通し、仮庁舎の深部へと突き進む。


『仮庁舎に正体不明の力が直撃!対象は地下拘束室に到達しました!』


―――拘束室…葉月ちゃん!!


その報告に、多香子の地面を蹴る力が強くなる。


風の気をフルに発動させた多香子は、言葉通り、風になり、間もなく仮庁舎前の広場に辿り着いた。


結界の破壊に当たった他の四人も、次々に戻ってくる。


しかし五人の粗い息遣いだけが聞こえるだけで、恐ろしい程の静けさが広がる。


そこに、突然、今まで感じた事の無い殺気が広がり、大気を震わせた。
< 215 / 315 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop