今宵、月の照らす街で
成二はひたすら大剣を降り続けた。


「散れ…!」


2本の大剣を中心に、大気から剣を呼び寄せては、放ち続ける。


先程、鬼蜘蛛から貰った一撃のせいで頭から血が流れ、痛みで意識が飛びそうだった。


それでも成二は、怯む事無く柱に向かう。


「邪魔ぁ!!」


半鬼を真っ二つにしたが、その影から鬼神が腕を振り降ろした。


「…!!!!」


重い一撃を剣で受け止められず、右膝が地面につく。


―――畜生!


右足に力を込めようとすると、自然と風の力が成二を助けてくれた。


「らぁっ!」


そのまま薙ぎ払った大剣は、鋭い風を生み、全ての魔を切り裂いた。


必然と柱までの道は開けたが、今にも意識が飛びそうな状態のために、思うように一歩を踏み出せない。


霞んで行く成二の視界の中に、車椅子が入った。


―――誰だ?


「頑張ったね。それに…大きくなったね」


澄んだ女性の声がした。その女性の後ろにあった柱は、音もないままに崩れた。


「な…」


「大丈夫。柱はもう壊したよ」


女性は成二に近付き、ゆっくりと手を翳した。そして、暖かい何かが成二の身体を駆け巡った。


「はやく多香子を助けに行ってあげてね」


成二の視界が鮮明になった時、不思議とその女性の姿は消えていた。


成二には何もわからないままだったが、不思議と懐かしさが胸にずっと残っていた。
< 234 / 315 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop