今宵、月の照らす街で
自宅の玄関を出た2人を、ダークスーツの8人が背中で出迎えた。


「さ、行くわよ」


明奈が微笑む。


「急ぎましょ?早く陛下の下へ向かわないと…」


「同感です」


千鶴の意見に成二、紘子が頷き、10人が静かに大地を蹴って空へと舞った。


向かう皇居は歩けば15分程。


だが、気の力を使えば、2分と経たずに着く事が出来る。


京都に着いて直後の清水寺での闘い、そして小龍沢の家への怪我人の収容。


皇居に辿り着くまで、もう2時間の時が流れた。アルファは消えたが、もしも足止めとして清水に散ったのなら、その大義は果たした事となる。


それよりも明奈が気になっていたのは、清水にアルファの一団が配備されていた事実。


多香子の話では、転移術の存在を知るのは蓮舞天照院と小龍沢の当主のみ。


―――敵が先を読んだ…いや、最悪の場合は…


皇居に近付く程、強くなっていくその気配に、明奈は“最悪の場合”を疑念から確信へと移り変わって行くのを感じた。


急ぐ気持ちに力が入り、大地を蹴る力が強くなる。


「急ぎましょう、明奈さん」


焦る気持ちを汲んでくれたのか、成二が傍に近寄り、声をかけた。


「…」


明奈が一瞬、キョトンとした顔になる。


「ふふふ…じゃ、遅れないでね、せぇじ」
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