今宵、月の照らす街で
「八龍って野蛮な奴もいるんだ」


長い黒髪を揺らして、女が言った。


「まぁ…アイツは別格だな」
「でも、強いよ?」


結衣と杏里が、京介の死闘を横目に答える。


「確かに…でも、君からは何も感じない。強いんだろうけど…所詮、ただ強いだけ」


女の視線は、杏里を捕らえて離れない。その言葉の、あからさまな愚弄に、結衣が一歩前に出る。


「何を…言いたいの?」


結衣の問い掛けにも反応せず、杏里から眼を離さない女は、右手を伸ばして人差し指を弾いた。


その弾いた衝撃が、指弾となって杏里を襲う。


「「!?」」


「…ほらね」


女は微笑みながら、もう一度指を弾く。


「く…ッ!?」


杏里は手にしていた槍を地に突いて気を流す。その気に反応して、樹木が壁を作り、一時的に防御壁を作った。


「付け上がらないでよ…!」


場の空気が、一瞬に凍りついた。そして大気中を舞う水分と塵が煌めく。


いわゆる、ダイアモンドダスト現象。


「氷…」


「霞家89代当主、霞結衣。参ります」
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