今宵、月の照らす街で
「アナンベルですって!?」


少し離れた場所で闘う明奈と千鶴が、その名に気を取られる。


「まさか…まだ生きていたの?」


歯を食いしばる2人を視界に入れて、廉明は何も言わずに口角を上げた。その中、成二は何も言わずにアナンベルと間合いを保ち、身構える。


「何故、そこまで知っているのか。そう尋ねたそうな顔をしているな」


アナンベルが右手を開くと、太刀が姿を現す。凛とした光を放つそれは、いつも姉が闘う時に見せる物だった。


「嵐紋………菊……一文字……?」


恐る恐る搾り出した答に、確信は無かった。だが、脳裏に浮かぶ姿と目の前の太刀が全く同じ姿である事に、成二をはじめとした紘子、明奈、千鶴は動きを止めた。


「嵐紋菊一文字。本来、刀とは造る行程で2本打つ。今、小龍沢に継がれているのは真打。いわば嵐紋菊一文字の本来の姿だ。安心していい。だが、これもそれ同等の力は宿している」


ゆっくりと太刀を構え、アナンベルの瞳に殺意が宿る。


「さぁ。お前の全てを否定してやろうじゃないか」


成二とアナンベルの対峙に、明奈が魔の群れから身を乗り出した。


「駄目、成二!貴方じゃあの男は………フォルセティ・アナンベルは倒せない!」
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