今宵、月の照らす街で
―――あァ…マズッた……!


意外に冷静な感想が頭に過ぎる。しかし、身体に刻まれた傷は深かった。


それでも、成二は体制を整えて着地し、間合いを取って一旦落ち着こうとする。


だがアナンベルは、そんな甘えを許してはくれなかった。


「どうした?戦意喪失か?」


「!」


構える間もなく、嵐紋菊一文字の刃筋が閃き、成二の身体から鮮やかな血が飛び散る。


「ッ!?」


成二の理性よりも、人間としての防衛本能が上回り、思わず身体を丸める。


「ク……ッ……そッ!!!」


その攻撃は止む気配がない。


「閃空絶刀[センクウゼットウ]」


無数の攻撃の最後、刀が空を裂き、風を絶ち、成二の身体に一文字が刻まれた。


成二の身体から、大量の血が流れ落ちる。


「成二ッ!!!!!」


余りにも無惨な弟の姿に、紘子が名を叫んだ。


成二が崩れ落ちた事は、対策室スタッフが保ち続けていた緊張の糸に些細な傷をつけたのかもしれない。


しかし、その細い糸には十分すぎるダメージだったのは、残念ながら事実だった。
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