今宵、月の照らす街で
成二から、澄んだ青い気が放たれる。


静かに漂うそれは、アナンベルの風とは全く異なる風だった。


「そんな風で我が嵐は破れぬ!」


アナンベルが成二に猛突進する。


「成二………」


激しい嵐を遠目に、千鶴を抱えた紘子が弟の名を優しく呼んだ。


明奈は、突風の中、優しく弟子の背中を見つめていた。


成二は、アナンベルの姿に怯む事なく、天叢を構える。


「小龍沢式退魔術奥伝終ノ型」


成二の“嵐”の波動が静かに燃え上がった。


「無式[ムシキ]」


成二が天叢を振り降ろした。


一瞬、天玉院の間を静寂が包む。その刹那、嵐は割れ、アナンベルの嵐紋菊一文字が折れた。


「馬鹿…な…」


アナンベルの左肩から右太股まで、一本の剣閃が描かれる。


「俺は、皆を守るためなら傷だらけでも立つ。それが俺自身の存在証明だ」


アナンベルが膝をつき、そのまま崩れ落ちる。


成二はそのまま、剣先を玉座近くに向ける。


「さぁ…後はアンタだけだぞ、廉明サン。覚悟、出来てるか?」


廉明は明らかな怒りを剥き出しにし、成二に殺気を放った。
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