今宵、月の照らす街で
壁に着地しながら、その眼を廉明に向ける。


脚に力を入れ、脚力に風の力を加え、多香子は出し得る最高の速度で廉明との間合いを詰めようとした。


廉明はそれを察し、一度薙刀を回す。


熟練の武芸者がよく行うルーティンワーク。廉明も無意識に行っていた時だった。


先程まで壁にいた多香子が目の前にいた。その存在に気付いた時、衝撃波が広間を襲う。


「!!」


咄嗟の防御も間に合わず、廉明にその衝撃波が直撃する。その正体は、ソニックブーム。多香子の“出し得る最高の速度”とは、風の力を支配した、音速を超えた速度。それは容赦なく廉明を襲い、多香子は完全に無防備な廉明に刃を煌めかせた。


「斬景煉舞!!」


あまりに早い一太刀に、廉明の身体に摩擦で生じた紅い一閃が刻まれる。次は廉明が壁に飛ばされ、壁に激突した。


「成二?紘子?」


多香子は自分の起こしたソニックブームの影響を、妹弟に確認する。


成二は手足を貫かれた時宮と明奈を囲みながら、紘子は千鶴と倒れた対策室スタッフを風でまとめ、それぞれの風の力で相殺していた。
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