今宵、月の照らす街で
「そこッ!」


多香子は小刻みな動きの中で、廉明の隙に傷を刻む。


「…なるほど」


胸に刻まれた傷を撫でる廉明は、独り言を呟いて多香子を見る。


多香子は嵐紋菊一文字を回しながら廉明を見据えている。その顔には微笑みと、焦りの顔が入り混じっっていた。


―――このまま簡単に…行く訳ないな。


廉明の心情を読んだ様に、廉明は“銀”の波動を放つ。


「ムんッ!!」


そこに陰の気を広げる。


「な!」


銀の、綺麗な色が、鈍く煌めく色に変わり、広間を覆う。


成二と紘子はそれを見て、風の力を使いながら負傷者を集め、二人掛かりで障壁を展開した。


多香子はこの様子に若干焦りを覚えながら、腰を落として“予想出来ない”出来事に身構える。


広間を支配したその波動は、やがて廉明に集束し始め、廉明の叫びと共に形を成す。


陰の圧力に圧され、多香子は何も出来ないままに廉明の変化を目にしていた。


その姿は、つい先日見た、あの甲冑の姿。


『貴様ハやはり全力でなけれバならなイらしイナ』
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