今宵、月の照らす街で

―四年前、京都―

―2005年9月12日―


残暑厳しい初秋の京は今日も旅行客で賑わっている。


逆に河原町近辺は政都までとは言わないが、サラリーマンやらOLやらが忙しそうに歩いていた。


―――なんて余裕のない人たち。


歴史の原点たる古都を、ただ当たり前の様に歩いている事に、春日明奈は疑問を浮かべていた。


「明奈さん!」


そんな明奈の名前を、人混みの中から呼ぶ声がする。


「葉月!学校は終わったの?」


まだあどけなさの消えてない、綺麗な顔立ち。月宮葉月は笑顔を浮かべて明奈に手を振った。


「うん…今日は部活ないし、明奈さんもオフって聞いたから…一生懸命捜してたの」


「私を?」


「そうだよ?」


「ケータイ…使えばいいのに」


「…」


しばらく続く沈黙に、急に可笑しくなって二人は笑い出した。


「馬鹿ね、葉月。さ、対策室に行くけど、来る?」


葉月は頷いて、明奈の後ろをついていった。
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