今宵、月の照らす街で
河原町から地下鉄京メトロ古都本線に乗って5分で二条城前。


かつての将軍の滞在地付近は古からの街並みを崩さぬよう、背の低いオフィス街が広がっている。


とは言っても省庁の大部分は政都に存在し、京都にあるの政府機関は京都宮内庁だけだった。


その赤煉瓦造りの建物に入り、6階にある対策室の扉を開く。


そこは古風な外観とは大きく掛け離れた近代的な空間、京都宮内庁陰陽課特殊現象対策室が設置されているフロア。


そして、明奈のように、陰陽師にして退魔師である人の集まる非公開政府特務組織。


「明奈。なんだ、葉月もか」


月読の血筋の長・月那主宮廉明長官。


「長官、遅れてすみません。依頼ですか?」


「うむ。場所は鴨川。いかんせん交通量も多く、素人でも気付きやすい霊圧だ。標的は鬼神。今夜0時、壱番隊で任務にあたれ」


「お父様…私も…」


「駄目だ」


娘・葉月の言葉を、敢えて低い声で遮る。明奈には、娘の気持ちと心配する親心のどちらの想いも伝わる。


明奈の両親は、彼女が幼い頃に死別した。そのせいか、二人のやりとりが、少し羨ましくも思えた。
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