今宵、月の照らす街で
―2005年9月13日―


紅の月が鴨川を紅に染める。


その景色の中、鬼神は奇声を発する事なく静かに消えていった。


「ま、こんなもんかな?」


顔を輝かせている葉月に一言、明奈は言った。


「さすがだね、明奈さん!」


―――純粋に憧れてくれてるのかな?


まっすぐで綺麗な眼が輝く。


「アリガト。さ、みんなは後始末をして!今日はあがりましょ!」


明奈の指示に本庁スタッフが動く。


「明奈さん、お昼…どうやってお父様を説得してくれたの?」


―――マズイ。


葉月の、何気ない問いが、明奈の動きを止めた。


それもその筈。


あの時、廉明に渡したのは、明奈の勤めてるキャバクラのVIPチケット。


そんな事を、娘に死んでも言える筈はない。


とは言っても、廉明は酒が好きで、たまに明奈の仕事を覗きがてら飲みに来る事はあった。


だが…どんな形であれ親がキャバに釣られたなんて言えない。


―――我が手腕に後悔ね。


「ワインのタダ券、プレゼントしたのよ。報告書と一緒にね」


―――嘘はついてない。あれは確かにシャンパンのタダ券!嘘じゃないからね…


「そっか…明奈さん、ありがとう!」


キラキラした葉月の瞳を、明奈はしばらく直視出来なかった。
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