奏。‐カナデ‐
記憶
「さぁむっ!」
暖房を常に常備した大学から外に出ると、予想以上の寒さに自然と独り言が出る。
乾燥と寒さから手を手袋で防備した。
あたしは、特に手を傷つけまいと注意しなければいけない人間なのだ。
肩から提げたソプラノサックスのケースをまたしっかりと掛け直した。
中学の部活でしていたサックス。
とくに上手いわけでもなかったあたしを、サックスのクリニックで見つけてくれた恩師。
その恩師の元で指導を受けてプロ並の腕前を身に付ける事が出来たあたしがこの、高校からのエスカレーター式の音楽大学に入学したのは4年前。
卒業した後のプロの道はもう約束されていて、あとはただ卒業後までに今と変わらぬ状態を保っていくことが、強いて言えばあたしの課題。
・・・・ただ多くも少なくも無い練習をこなす毎日に、少し飽き気味になっていた。