奏。‐カナデ‐






「っ片瀬!!」

あたしは勢いで立ち上がった。


教室の入り口から伸びる、背の高い影。

ドアにもたれてあたしを見るあの瞳は、何も変わらない。
見下すようなムカつく視線。

どこか優しい、視線。




「はぁ~ぁ。まじ昨日、恥ずいとこみせたわ」

下を向いて、表情が見えないようにこちらへ歩いてくる片瀬。

きっと片瀬は、昨日のこと軽く言って無かったことにするつもりだ。



「・・・恥ずかしくなんか無いよ」

不意にあたしが言った言葉に、片瀬が驚いて顔を上げる。
あたしはそれを、真っ直ぐ見つめる。

「何で、無かったことにしようとすんの」

「・・・聞いたか、俺が言ったこと」

「うん」

はぁ、と小さく片瀬がため息をついた。
あたしたちの距離、1m。


「・・・俺は、そんなヤツなんだよ」

"捨てられるような"。
片瀬の瞳が、そう言っている。

・・・なんでわざと、そんなこと。
そんなに悲しい瞳をして。


「片瀬は、そんなヤツじゃないよ。」

言った。
言い切った。

強く、彼の瞳を見て。

片瀬の瞳が揺れる。
初めて言われたのだろうか。



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