奏。‐カナデ‐
大切なもの
「こらぁ!!3年男子ちゃんと並べぇ!!」
運動場で張り上げられる、先生の声。
―5月。
あたしたちの学校は体育祭を1週間後に控えていて、その練習に励んでいた。
「あーまじ肌焼けるんだけど」
奈々がぼやきながら日焼け止めクリームを塗る。
小学校では皆無だったそれは、すでにあたしの肌にも塗られている。
「でもさぁ、男子が汗流して走ってるってカッコイイよね。」
急に奈々の瞳が色を変える。
ゲンキンだなぁ・・・とか思いつつ、あたしもその意見には賛成。
「咲弥、片瀬ってやっぱ人気あるみたいだよ」
奈々が言った、"片瀬"ってワードに素早くあたしは反応する。
言われて、片瀬の方を見る。そして、その片瀬を見ている女の子達もいることに気づく。
「まじだぁ・・・」
「ルックス"だけ"最上級だからねぇ」
"だけ"かい。(笑)
でも、確かに。
中1では、背の低い男子はまだまだ居る。
でも、片瀬はなんだか完成しているような感じだった。
170くらいもうあるんじゃない?ってぐらいの身長と、広い背中。
あたしが好きだからかもしれないけど、そこらへんの男子なんかと全然違う気がする。
何回かリレーを走り終わり、にじむ汗を気にせず仲良い男子とじゃれている。
一体、何人の女の子が彼を見つめているのだろう。