涙の欠片
第六章−存在−
冷たい冷たい風も、もう何もなかったかの様に過ぎ去って、あたしは高校3年生になった。
4月の風は心地よくて、所々に立っている桜の木から花びらが風に舞って落ちていく。
真っ青な大空に向かって左腕を軽く上げ、目線を上に上げる。
手首に埋もれている傷。
まだ傷痕は消えないけどリストバンドはもう必要じゃなくなった。
それはリュウと言う存在が居たからあたしは前より強くなれたんだと思う。
見つめていた手首に一息吐き一歩一歩、前に足を進める。
3年生になった新しい教室に入ると、まったく知らない顔ぶればかりで新鮮な笑い声が響き渡る。
もう、あの時のクラスみたいに沙織も居なくって一馬も居ない。
頼れる人は居ない。
けど一人は嫌いじゃないし、むしろ慣れている。
窓際の席に腰を下ろし、ふとその横に目を向けた時、窓枠に書かれている文字に目が止まった。
“渋谷先輩スキ”
そしてその横に…
“神崎先輩LOVE”
誰が書いた文字か分かんないけど、あたしはその名前を人差し指でそっと触れた。